東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2410号 判決 1986年12月24日
控訴人
八千代信用金庫
右代表者代表理事
新納太郎
右訴訟代理人弁護士
坂本建之助
浅野晋
原勝己
被控訴人
田邊秀夫
被控訴人
田邊秀光
被控訴人
田邊幸雄
右両名法定代理人親権者父
田邊秀夫
右三名訴訟代理人弁護士
宗田親彦
阿部敏明
石川一郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めるとともに、原判決主文第一項に掲げる期限は既に到来しているので現在の給付の請求に改めると述べた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
当裁判所も本件定期預金契約に基づく被控訴人らの請求は理由があるから正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次の説示を付加するほか原判決説示理由(判決書中一五丁裏九行目「場合は」の下に「、通常の一部保証は別として少なくとも根保証にあつては」を加え、一六丁裏四行目「しかも」から同所五行目「ならない。」までを削り、同所末行「相当だからである」を「相当である」に改め、二三丁表末行「、本件調停条項の趣旨に基づいて」を削る。)と同一であるから、これを引用する。
控訴人は、根抵当権設定契約(乙第一号証)第一三条第一項に「根抵当権設定者は、この根抵当権の被担保債務について極度額を限度とし、債務者と連帯して保証債務を負い、その履行については債務者が別に差し入れた信用金庫取引約定書の各条項のほかこの条項に従います。」とあり、信用金庫取引約定(乙第二号証)第三条第二項に「貴金庫に対する債務を履行しなかつた場合には、支払うべき金額に対し一〇〇円について一日金四銭の割合の損害金を支払います。」とあることを捉えて、債務不履行の場合は極度額の約定にかかわらず右極度額を超えて更に損害金を付加して支払うべきものであると主張する。しかしながら、保証は主債務に附帯する遅延損害金にも及ぶものである(民法第四四七条第一項)以上、主債務におけると同率の遅延損害金を保証債務につき特に定めることはおよそ無意味であるから、信用金庫取引約定第三条第二項を引用した趣旨は、前示引用の原判決理由中に説示されているとおり、主債務につき同条項所定の割合による遅延損害金の定めのあることを示したものにすぎず、この条項がなければ保証債務の限度額は根抵当権設定契約第一三条第一項によつていわゆる債権極度額とされている(この点も、同じく原判決理由中の説示のとおりである。)のが、右約定第三条第二項を引用することによつて変更され、保証人において右極度額を超えて遅延損害金を支払うべきことを特約として定めたことにはならないと解すべきである。もし右極度額を超えて遅延損害金を保証させるのであれば、「保証債務の限度額は元本何円とし、利息・損害金については、この限度額内のときはもちろん、これを超えても保証するものとする。」旨を明記した書式を用いれば足りるのであるから、以上の解釈が信用金庫の現実の業務に支障を来すことになるとは考えられない。ちなみに、民法第四四七条第二項は保証債務の履行を確実にするための違約金等に関する規定であるところ、保証につき主債務におけると同率の遅延損害金を定めたからといつて、その定めがない場合に比し保証債務の履行がより確実になるものではないから、民法の右規定を根拠にして前記約定第三条第二項を保証債務それ自体に関する遅延損害金の割合の約定と解することもできない。
なお、右の根抵当権設定契約第一三条第一項に関する以上の解釈及び前示引用の原判決理由の説示するところは、どの場合でも一様に妥当させなければならず、たまたま本件において被控訴人らの側においても限度内の元本に対する遅延損害金であれば限度額とは別に保証の責めに任じなければならないと認識していたとしても、その認識どおりの特約をしておれば格別、かかる特約のない本件では右の一般論としての解釈によるべきであり、本件に限つて当事者の認識に合わせて同条項を解釈することは当を得ない。
よつて原判決(既に履行期は到来したから、主文第一項は無条件給付となつている。)は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官賀集 唱 裁判官安國種彦 裁判官伊藤 剛)